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『君たちはどう生きるか』考察④新しい「冥界下り」の神話

宮﨑駿監督最新作君たちはどう生きるか考察シリーズ。

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前回は、眞人を導くアオサギに隠された暗号を解き明かしました。

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では今回は、彼らが迷い込む「不思議の国」について考察していきます。

 

~~~以下ネタバレありです~~~

 

 

 

不思議の国に繋がる扉は、隕石が落ちたことで生まれました。

たぶん隕石からは特殊な磁場が生じ、時空が歪むのでしょう。その歪んだ時空の隙間から、さまざまな世界へ行くことができます。

 

これは、太古から人類が崇めていた「巨石信仰」に繋がります。

石には不思議な力があります。磁気を狂わし、特殊な放射線を放つものもあります。それが巨大だと、その力は計り知れません。

古代の人々は、その巨石を神が宿るとして崇めていました。

 

この作品のラストの大おじとの対立場面は、巨石の前で行われます。もののけ姫でも随所に巨石が登場し、ここでも宮崎監督は、私たちが忘れかけていた記憶に対して刺激を与えます。

 

↓巨石に関しての記事

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では、不思議の世界へ入っていきたいと思います。

不思議の世界は、全くの支離滅裂な物語が展開し、宮﨑監督の脳内を見せられているようです。この作品に否定的な人は、この部分に拒否反応を起こすのでしょう。

しかし宮﨑監督は、思いつきだけで描いてはなく、スクリーンに映し出される出来事には全て意味があります。

 

その謎を解くヒントが、キリコの家にいた「ワラワラ」です。



初めワラワラは、コダマのような可愛い存在で描かれます。しかし夜になると、ワラワラたちは螺旋を描きながら宙に舞い、天上へと向かっていきます。

眞人はキリコに尋ねます。

「みんな、どこへ行くの?」

キリコは答えます。

「おまえが来たところさ。上で、生まれるんだよ」

眞人は驚きます。

「人間に?」

キリコは笑顔で、

「あたりまえじゃん。腹いっぱい、食わせてあげられて、よかったよ」と答えます。

 

ワラワラの正体は、「人間の魂」なのです。死んだ魂が、もう一度生まれ変わるために、お腹いっぱい食べて生気を養い、再び人間界へと舞い戻るのです。

これは「輪廻転生」を意味しています。

 

つまりこの不思議な世界の正体は、死後の国、「冥界」なのです。

 

しかし、死後の世界は空の上のイメージがありますよね。

 

実は、神話の世界では「冥界」は地下にあるのです。

シュメール神話「イナンナの冥界下り」は有名ですよね。

 

日本神話でも、イザナギが死んだイザナミに会いに行く「黄泉の国」は地下にありますし、大国主スサノオに会いに行く根の国も地下にあります。

 

古代の人類の宗教観は、死んだら肉体と一緒に魂も土に帰り、地下の冥界で生命エネルギーを蓄え、また地上へ戻る、その繰り返しだと考えられてたのでしょう。

そして、その繰り返しの中で「悟り」に行き着いた魂は、そのループから外れ、天上界へと行くことができる。

この世界観を体系化したのが、仏教の「六道(りくどう)輪廻」であり、「解脱(げだつ)」の思想なのです。

 

宮﨑監督がこの作品で挑戦したことは、新しい「冥界下り」の神話を創造することです。

古代の人類の死生観を復活させることです。

 

全ての魂は輪廻します。

 

絵本作家ののぶみさんは、胎内記憶を持つ子どもたちを取材する中で、津波にのまれる記憶を持っている子どもたちに何度も出会います。その子どもたちが東日本大震災津波の映像を見ると、「ここいったことがある!」と言うそうです。


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私はその話を聞いて、心が救われた気持ちになりました。

 

 

震災当時、私は亡くなった方々のことを思うと、やりきれない悲しさに押しつぶされそうになりました。

でも、その魂はそこで終わりではなく、また新たな命として生まれ変わってきていると知り、心が軽くなりました。

 

目の前の子どもたちはもしかすると死んでいった知人の生まれ変わりかもしれないし、先人の魂を受け継ぐ子どもかもしれません。

私が介護の仕事をしていた時に亡くなった利用者さんたちも、きっとすでに生まれ変わっているんだろうなぁ。

 

そう思うと、自然と優しさが溢れてきます。

子どもたちとの接し方も変わってきます。

 

私たちの死に対しての考えも変わってきます。

 

この作品は、唯物主義だった戦後から、時代が転換しようとしている現在の私たちに向けて、宮﨑監督が投げかけるメッセージなのです。

 

 

そして、そのメッセージをさらに深掘りしていきたいと思います。

冥界を下りた眞人が出会うのは、実の母であるヒミの幼き姿です。

実はヒミこそが冥界に押し込められたイザナミなのです!

 

次回はこの件を深掘りしていきます!

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お楽しみに!

 

<参考文献>

 

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ありがとうございました