宮﨑駿監督作品『君たちはどう生きるか』考察シリーズ8回目です。
前回は、キリコと古代海洋民族について考察しました。
では今回は、この作品のラスボスである「大伯父」について考察します。
〜〜〜以下ネタバレありです〜〜〜
この作品の最後に眞人と対峙する大伯父は、ヒミと夏子の母の伯父です。
夏子が言うには、大伯父はとても頭がよく、本の読み過ぎで頭がおかしくなったそうです。
不思議な国につながる塔は、この大叔父が建てたました。
おばあちゃんたちの話によると、明治維新の少し前、家の裏にある湖に隕石が落ちてきました。湖は干上がり、クレーターの中央にはグロテスクな巨石が佇んでいました。
月日は流れ、巨石の周りは森になり、人々は巨石のことを忘れていたころ、大伯父がその巨石を発見するのです。
大叔父はこれは貴重なものだからと塔で覆います。一度、謎の揺れで工事の足場が崩れ、多くの人が亡くなりますが、それでも塔を完成させます。
そして大叔父は塔の中に消えていってしまいます。
その大叔父は、この不思議の国の創造者です。
彼が作った理想郷です。
そうです。この物語は、大伯父が始めた物語です。
そしてその物語を眞人が継承するかどうかが作品のクライマックスです。
なぜ大伯父は眞人に継承させようとするのか。
それは彼が本に救われた者だからです。
2回目の考察で解説しましたが、厭世的になっていた眞人の態度がガラリと変わったのは、吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』を読んでからです。
理想と現実の間を苦しみながら成長する「コペル君」の姿に、眞人は勇気をもらい、覚醒します。そして塔に迷い込んだ夏子を救いにいきます。
宮﨑監督もかなりの読書家で、本が持つ力を信じているのだと考えられます。しかし、その力が強力なことも知っているはずです。本に取り憑かれると破滅に向かいます。
大伯父とは、眞人の未来の姿です。
眞人と大伯父の対峙は、未来の自分との対峙を暗示しています。
しかし、彼は大伯父の物語を継承しなかった。それは、本からもらった勇気を起爆剤として、不思議の国で様々な困難に打ち勝ち、大切な人を守ったからです。
眞人は不思議の国で、本当の勇気を得たのです。
本だけではない、本当の知識と経験を得た眞人は、大伯父を遥かに超えてしまいました。彼は、自分の思い通りにできる異世界よりも、苦しみで溢れている人間界で生きる覚悟を決めたのです。
この選択で、眞人は未来を変えました。
その選択は、大伯父が作り上げた宇宙の崩壊を意味します。
しかしそれは、新たな物語の始まりでもあります。
私たちが生活しているこの世界も、いま崩壊しようとしています。では私たちがこの世界を継承するかというと、しないでしょう。むしろ、新しい世界が訪れることを心待ちにしています。
この物語は、現代社会のいまこの瞬間を描いているのです。
これはいま私たちがどのような選択をするべきなのかの道しるべになるでしょう。
では話は変わり、大伯父のモデルは誰なのかというと、宮﨑監督はNHKのドキュメンタリー番組で「大伯父は高畑勲監督」であるとおっしゃってました。
宮﨑監督にとってアニメ業界の師匠であり、思想的にも多大な影響を与えている高畑勲監督。
この作品は宮﨑駿監督の自伝的な作品とおっしゃってたので、作品の結末は、高畑勲監督との決別を意味しているのでしょうか。
しかし今回私は、大伯父=未来の眞人 と考察しました。
私はここで、ある仮説を打ち立てたいと思います。
それは、
眞人 = 高畑勲監督
というものです!
とんでもない暴論です。
しかし、次回はあえてこの暴論をベースに、この作品の主人公である眞人について考察していきたいと思います。
お楽しみに!
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ありがとうございました🫶