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今回は、『もののけ姫』最大の炎上案件である、
「なぜアシタカヒコはカヤからもらった黒曜石をサンに渡したのか?」
について考察していきます。
この件に関しては、女性はもちろん男性でも納得できない人は多いと思います。
私も公開当時、子供ながら疑問に思っていました。
サンとカヤの声を担当した石田ゆり子さんも、この件に関して宮崎駿監督に抗議したほど(それに対して宮崎監督は「男とはそういうものだ」と一蹴したとか)。
未見の方のためにこのシーンを説明しますと、アシタカヒコが夜遅くに村を去る時、村の娘であるカヤが涙を流さんばかりの表情で別れの言葉を伝え、黒曜石を渡します。アシタカヒコは笑顔でそれを受け取ります。
しかしその後、アシタカヒコは山の民であるサンにその黒曜石をあっさり渡してしまいます。
この行動に、全女性はブチギレです。
カヤはアシタカヒコを想って大事な黒曜石を渡したはず。
それなのにアシタカヒコはあっさりと別な女に黒曜石を渡します。
それまで紳士的な男だったアシタカヒコだけに、この行動には幻滅です。
しかし、それにも理由があるのです。
以前にも解説しましたが、アシタカヒコは出雲王家の末裔です。時代が違えば王となる血筋の男です。
古代の王とは一族の血を絶やしてはならず、そのため本妻の他に何人も妻や側室がいて当たり前の世界で生きています。当時の乳幼児の死亡率の高さから見たらなおのことです。
ましてやその常識が明治以前まで存在していました。
しかも、アシタカヒコの祖先である大国主は、領土を拡大していく中で、各地の女性を次々に妻にし、多くの子供に恵まれました。記紀には子供が180柱もいると記されています。
水木しげる先生が描いた一コマがわかりやすいです。
『水木しげるの古代出雲』より
だから大国主は、縁結びや子孫繁栄の神様なのです。
つまり、アシタカヒコは出雲王家の末裔なので、子孫を多く残さないといけない宿命でした。
なので幼なじみからのプレゼントを平気で別の女に渡せるのです。
これが王の風格です。
と説明しても、納得できない方もいるでしょう。
だから大奥で描かれる女性同士の憎悪劇は『源氏物語』以降も絶えないのでしょう。
古代の男性社会の常識と、女性の感情の対立が垣間見れます。
これは永遠に分かち合えない争いなのかもしれません。
では次回は、『もののけ姫』最後の考察になります。
「なぜ『もののけ姫』は難解なのか」
考察の総括をします。
次回へ続きます。
参考動画
参考文献
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