前回までは、豊国物部氏の蝦夷討伐までの流れを追っていました。
その途中で、なぜか物部氏が、藤原氏の神社である鹿島神社を創建していることに気がつきました。
なので話の流れから脱線しますが、今回はその謎に迫りたいと思います。
そもそも豊国物部氏が祀る神様はどんな神様でしょうか？
それは群馬県富岡市にある「貫前(ぬきさき)神社」にあります。
ここの神社のご祭神は「経津主(ふつぬし)神」です。
貫前神社のホームページには、「物部姓磯部氏が、氏神である経津主神を祀り」とあります。
香取神宮は鹿島神宮とセットで語られるイメージがありますから、経津主神も藤原氏の神様だと思っていたのですが、どうやら違うようです。
経津主神は『日本書紀』に登場する神様で、鹿島神宮に祀られる武甕槌神と一緒に葦原中国(あしはらのなかつくに)の平定を行います。
この物語を読むと、経津主神は武甕槌神の子分的なポジションに感じられます。
しかし、『古事記』には経津主神は登場せず、代わりに武甕槌神が「建布都神(たけふつのかみ)」や「豊布都神(とよふつのかみ)」と記述されます。「ふつ」の字があることから、武甕槌神と経津主神は同一視されることがあります。
この辺りから、なんだか怪しくなってきます。
「豊布都神」なんて豊国物部氏の要素満載です。
経津主神に関連するエピソードはまだまだ続きます。
日本神話に何度も登場する「十束(とつか)の剣」。
その中で、スサノオがヤマタノオロチを斬る剣の名前が「布都斯魂剣(ふつしみたまのつるぎ)」です。
もうひとつが、神武天皇が東征の際に高倉下(たかくらじ)が献上する剣の名前が「布都御魂(ふつのみたま)」です。
どちらも名前に「ふつ」が入ります。
この二つの剣は、物部氏の先祖である「宇摩志麻治命(うましまじのみこと)」が祀られている奈良県天理市の「石上神宮」の御神体として祀られています。
軍事を司る物部氏にピッタリなエピソードです。
「ふつ」は「断ち切る」という意味があるそうです。
私はそのほかに「払拭」、つまり「祓う」の意味もあるように思えます。
そこで思い出すのが、物部氏と同じ祖先を持つ「忌部(いんべ)氏」です。
忌部氏は古代の祭祀を司る氏族でした。
しかし、その祭祀を藤原氏に奪われてしまいます。
忌部氏の祖先に「天太玉(あめのふとだま)命」がいます。
彼の名前の「ふと」も、もしかすると「ふつ」と同じ意味かもしれません。
占いのことを「太占(ふとまに)」と言いますから、「ふつ」には呪術的な意味も含まれるのだと思います。
その天太玉命は、日本神話の「天の岩戸開き」に登場します。
スサノオの蛮行に嫌気がさして天照大神は岩戸に隠れてしまいます。
そんな天照大神を岩戸から出すために、天太玉命は「天児屋(あめのこやね)命」とともに太占を行い、八尺瓊勾玉や八咫鏡を掲げ、天照大神が顔を出すことに成功します。
天太玉命と一緒に祭事を行なった天児屋命こそ、藤原(中臣)氏の祖先です。
もとは同じ祭祀を行なっていた二柱ですが、その子孫は権力を争ってしまうという悲しい展開が待っています。
話は脱線しましたので、本題の結論にいきます。
東北に存在する物部氏が創建した鹿島神社は、藤原氏より先に物部氏が勧請したものですが、それを藤原氏が後から上書きをしてしまいました。
私は鹿島神宮と香取神宮も、最初は物部氏か阿波忌部氏が創建したものだと考えています。
そこを藤原氏に奪われてしまった。
しかしこれは、悲しいかな、相手の信仰を奪うという、支配の歴史では当然のことなのです。
権力者はいつだって、その行為のスパイラルにいるのです。
しかし、今の私たちは本来の信仰を再び取り戻さないといけないために、日本で行われてきた「神殺し」について認識しなければなりません。
そのときに来ています。
この記事がその鍵になれればと願っています。
では、次回は本来の「豊国物部氏による蝦夷討伐」の考察を進めていきたいと思います。
↓次回へ続きます！
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